前にも述べておりますが、私は大学時代に男声合唱団でバス(最低音パート)
を歌っていました。そして、数々のレパートリーの中で、今でも歌ってみたい曲は
沢山ありますが、その筆頭は「 黒人霊歌 」です“ 曲目は下のとおり ”。
Deep River( 深い河 )
Ride the Chariot( 戦車に乗ろう )
Steal away to Jesus( イエスのもとへ逃れよう )
Sometimes I Feel Like A Motherless Child( 時には母のない子のように )
The Battle of Jerico( ジェリコの戦い )
Soon-a will be done( もうすぐ終わる )
これらは、長い間奴隷として虐げられてきた、文字の読めない黒人たちが、
聖書を“ 音 ”として聴き、“ 魂の叫び( Negro spiritual ) ”として
歌にしたものです。そして、この中の代表曲は、太い重厚な低音が響く、
低音パートが最も活躍するDeep River( 深い河 )です。
また、もう一つの『 深い河(1996) 』は遠藤周作の長編小説。
“ キリスト教的視点で描く純文学で、立場も背負っているものも違う人々が、
それぞれの目的で聖なる川「 ガンジス 」を目指す物語 ”
そして、この創作日記には次のように書かれています。
“・・・『 河 』という題が『 深い河 』という題に変わったのは、黒人霊歌
の「 深い河 」を昨日聞いて、これこそこの小説の題を表していると思い、
作品中にこの霊歌を暗示する一節を入れたいと考えた。 ”
そして、作者は実際にこの題「 深い河 」にディ―プ・リバーと併記し、
第1章の冒頭に「 深い河、神よ、わたしは河を渡って、集いの地に行きたい
黒人霊歌 」と記述しています。
ところで、この舞台であるインドには「 墓 」がないのはご存知でしたか。
ヒンドゥ教徒にとってのガンジス川は「 聖なる川 」で、沐浴をすることには
「 罪を清める 」という特別な意味があり、人が亡くなると火葬にしてから、
その遺骨をこの川に流します。 また火葬しないで遺体をそのまま流すという
「 水葬 」もあるようで、小説の中でもこの描写は出てきます。
遠藤周作氏は、狐狸庵山人( こりあんさんじん )として、いたずら好きで
親しみやすく、多くの人と幅広い交友を持った作家で、北杜夫氏とも深い親交
があり、お二人の交流を描いたエッセイを昔楽しく読ませて戴いたものですが、
1996年に73歳で逝ってしまわれました。
今回、『 沈黙 』と『 深い河 』を拝見しましたが、12歳で洗礼を受けた
カトリック信徒として、生涯をかけてキリスト教にこだわり続けた作家で、
海外でも翻訳され高い評価を受けているとのことです。
そして、先生がスポットライトを当てる信者は、高潔な強者ではなくて、例えば
ユダのように、時には主を裏切ってしまう聖なる弱者で、その弱さ故の苦悩を
見事に描いており、思わず自分の姿を投影してしまいます。
先生自身、若い頃から病気がちで、肺結核や糖尿病を患い、最後も「 壮絶な闘病
生活 」の末に旅立たれたようで、ある意味“ 弱者 ”であったのかもしれません。
北杜夫氏はエッセイ「 遠藤周作さんの深い河(1996) 」で、こう述べています。
“ この作品で、チャームンダーという女神について添乗員が説明するところが
ある。「 彼女の乳房はもう老婆のように萎びています。でもその萎びた乳房から
乳を出して、並んでいる子供たちに与えています。彼女の右足はハンセン氏病の
ため、ただれているのがわかりますか。腹部も飢えでへこみにへこみ、しかも
そこには蠍(さそり)が噛みついているでしょう。彼女はそんな病苦や痛みに
耐えながらも、萎びた乳房から人間に乳を与えているんです 」。
ここにも遠藤さんの求め続けた、キリスト教を超えた宗教観が表れていると思う。
・・・・・・・・
遠藤さんは求めてやまなかった人間の深い河をようやく渡って帰星されたのだ。 ”
Deep River(深い河) ~ 男声合唱曲集より
my home is over Jordan,Lord!
私の故郷“ 聖地カナン ”はヨルダン川のむこうにあります 神よ!
Deep river,my home is over Jordan,
深い河よ 私の故郷はヨルダン川のむこうにあります
Deep river,Lord!
深い河よ 神よ!
I want to cross over into campground.
私は河を渡って「集いの地」へ行きたい
Deep river,my home is over Jordan,
深い河よ 私の故郷“ 聖地カナン ”はヨルダン川のむこうにあります
Deep river,Lord!
深い河よ 神よ!
I want to cross over into campground.
私は河を渡って「集いの地」へ行きたい
Oh,don’t you want to go to the gospel feast,
あの祝福された宴へ行きたくないか
Oh!Promised Land,where all is peace?
約束の地 穏やかな安住の地へ
Oh!Deep river,Lord!
深い河よ 神よ!
I want to cross over into campground.Ah!
私は河を渡って「集いの地」へ行きたい